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テレビが広めた方言、テレビが変えた方言|方言コスプレの時代
キャラの語尾が「〜じゃ」なら博士、「〜だべ」なら素朴な人。私たちはいつのまにか、方言を記号として読む力を身につけています。
マンガに出てくる博士は、たいてい「そうじゃ、わしが作ったんじゃ」と話します。 実際に「じゃ」を日常語として使う博士はほとんどいないのに、 私たちはその話し方を読んだ瞬間、白衣と白髪を思い浮かべます。
これは方言そのものというより、方言を材料にした記号です。 メディアは方言を広めもしましたが、同時に、 方言を「キャラを表す道具」に変えてもきました。その両面を見ていきます。
方役割語——話し方だけで人物がわかる仕組み
言語学者の金水敏は、特定の話し方が特定の人物像を呼び起こす現象を「役割語(やくわりご)」と名づけました。 「〜じゃ」=老博士、「〜ですわ」=お嬢様、「〜でごわす」=薩摩の武士。 現実の使用実態とは切り離されたところで、 イメージだけが独立して流通しています。
なぜ博士は「じゃ」と言うのか
金水の説明では、これは江戸時代にさかのぼります。 当時の江戸には、上方(西日本)の言い方を保った年配層・学者・医者と、 新しい江戸の言い方を使う若い層がいました。西日本系の「じゃ」が年長者や知識人と結びついた結果、 そのイメージが後の創作物に受け継がれていった、という筋書きです。
方ヴァーチャル方言と「方言コスプレ」
方言学者の田中ゆかりは、土地に根ざした生活のことばであるリアル方言に対して、 メディアなどで編集・加工された方言をヴァーチャル方言と呼びました。 そのうえで、方言のステレオタイプを使って別のキャラを演じる行動を「方言コスプレ」と名づけています。
たとえば関西出身でない人が、笑いを取りたい場面だけ関西弁になる。 SNSで、あえて地元と関係ない方言を使って柔らかさを出す。 これは方言を話しているのではなく、方言のイメージを一時的に着ている状態です。
ドラマの方言は、2つの働きをしている
田中の整理によれば、ドラマで使われる方言には地域用法(その土地を表すための方言)とキャラ用法(人物像を示すための方言)があります。 そして近年は地域用法が弱まり、キャラ用法が前面に出てきている、 という指摘がなされています。
言い換えると、方言は「どこの人か」を示す記号から、 「どんな人か」を示す記号へと役割を移しつつある、ということです。
方メディアが実際に方言を広めた例
一方で、メディアが方言そのものの認知度を押し上げたのも事実です。 いちばん分かりやすいのが、2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』でしょう。 劇中の驚きの表現「じぇじぇじぇ」は、 その年のユーキャン新語・流行語大賞で年間大賞に選ばれました (この年は史上最多の4語が年間大賞になっています)。
岩手県久慈市周辺で使われていた驚きの表現が、 1年で全国の共有物になった。 テレビが方言に対してどれだけ強い増幅装置になるかを示す事例です。
方SNS時代の方言:全国区になる語、ならない語
テレビの次は、SNSです。 「めっちゃ」(関西)や「なまら」(北海道)のように、 意味が直感的に分かり、短く、強調に使える語は全国に広まりやすい。 逆に、その土地の生活と強く結びついた語や、 文法そのものにかかわる形は、外へ出ていきにくい傾向があります。
広まった語は便利になる代わりに、出身地の情報を失います。 「めっちゃ」を使う人が関西出身とは限らないように、 全国区になった瞬間、その語は方言としての機能を手放すことになります。 言葉が新しく生まれ、広がっていく仕組みについては 新方言の記事 でくわしく扱っています。
方それでも、方言コスプレは悪いことではない
田中はヴァーチャル方言を批判しているわけではありません。 むしろ、場をやわらげたり、言いにくいことを言いやすくしたりするコミュニケーションの道具として機能している点に注目しています。
きつい指摘を関西弁風にすると角が取れる。 照れくさい言葉を方言にすると口に出せる。 方言のイメージは、素の自分と発言のあいだにクッションを置いてくれます。
大事なのは、ヴァーチャル方言とリアル方言を混同しないことです。 メディアで見た「その土地らしい話し方」は、 あくまで加工されたイメージ。 実際にその土地で話されている言葉は、もっと細かく、地味で、多様です。
方まとめ
メディアは方言を全国に運び、同時に方言をキャラの記号に変えました。 私たちが方言に「かわいい」「怖い」「素朴」といった印象を持つのは、 かなりの部分がこの過程でつくられたものです。
方言ラボの診断も、この記号の力を借りて遊ぶ仕組みになっています。 だからこそ、記号の向こう側に生活のことばがあることは、 ときどき思い出しておきたいところです。
参考・出典
- 金水敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』岩波書店(役割語の定義・「〜じゃ」と博士キャラの由来)
- 田中ゆかり「方言とコミュニケーション――『ヴァーチャル方言』とその効能」SYNODOS 2014-09-01(現URLは404。Internet Archive の保存版)
- 田中ゆかり『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』岩波書店
- 「2013年の流行語年間大賞は『今でしょ!』『じぇじぇじぇ』など4語」ITmedia NEWS 2013年12月2日
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