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「じゃん」はどこから来たのか|新方言と若者ことばの地図

「そうじゃん」は東京の若者ことば——と思われがちですが、たどっていくと東海地方に行き着きます。方言は、いまも生まれ続けています。

言語学入門公開 更新 読了 約7

方言というと「おじいちゃん・おばあちゃんの言葉」「だんだん消えていくもの」 というイメージがあります。でも実際には、いまこの瞬間も新しい方言が生まれています。 しかも生まれた場所が地方で、広まった先が東京、という逆向きの流れさえあります。

その代表が「じゃん」です。東京の若者ことばの顔をしていますが、出身は東京ではありません。

「新方言」という考え方

方言学者の井上史雄は、こうした現象をとらえるために「新方言」という用語を使いました。定義はおおむね、「若い世代ほど使用者が多くなりつつある非共通語形で、 使い手自身もそれを方言だと意識しているもの」です。

ポイントは3つあります。①共通語ではない、②若い人ほど使う、 ③使っている本人が「これは正式な言葉ではない」と分かっている。 この3つが揃うと新方言。つまり衰退ではなく成長している方言を指す言葉です。

ふつうの方言との違い
従来の方言は「年配の人ほど使う」ものでした。新方言はその逆で、 「若い人ほど使う」。同じ地域のなかで世代を追って調べると、 使用率が右肩上がりになるのが特徴です。 だから、放っておくと今後さらに広がる可能性があります。

「じゃん」は、どこから来たのか

〜じゃんもとは東海地方(山梨・静岡ほか)

〜じゃないか(確認・同意)

それ、めっちゃいいじゃん

「じゃないか」が縮まった形と説明されます。 井上史雄の解説によれば、もともと中部地方の言い方で、山梨・静岡のあたりから戦前に横浜へ入り、 戦後に広まったとされ、東京で使われるようになったのは1960年代後半以降です。 つまり「じゃん」は、東京生まれの言葉ではありません。

いまや「じゃん」は全国のどこでも通じ、テレビでも普通に使われます。 しかし辞書的な標準語かというと、そうではない。共通語と方言のあいだの、まだ名前のない場所にいる言葉です。

「じゃん」の親戚たち

同じ役割を持つ言い方は各地にあります。 北海道・東北の「〜しょ/〜っしょ」、関西の「〜やん」、 名古屋の「〜じゃんね」。どれも「確認して同意を求める」ための道具です。 言葉というのは、必要な機能があるところに、地域ごとの形で必ず生えてきます。

「ちがかった」「うざい」も新方言

ちがかった関東を中心に拡大

違っていた

思ってたのとちがかった

「違う」は動詞なので、本来は「違った」が正しい形です。 ところが意味のうえでは形容詞に近いため、 「高い→高かった」と同じパターンにあてはめた「ちがかった」が広がりました。 文法的には誤用でも、言語の変化としては筋の通った動きです。
うざい東京・多摩地方が起点とされる

わずらわしい・面倒だ

通知がうざい

もとの形は「うざったい」で、東京西部・多摩地方の方言だったという説があります。 それが若者語として全国に広がり、いまでは方言だと思っている人はほとんどいません。 新方言のなかでも、出世した部類です。

井上史雄は「ヤッパ」「チョー」「ウザッタイ」「チガカッタ」など、 こうした語を大量に集めた辞典を編んでいます。 個々の言葉は流行語に見えても、まとめて地図に落とすと分布と伝播の方向がはっきり見えてくるというのが、この研究の面白さです。

方言と共通語が混ざると、何が起きるか

地方に共通語が入ってきたとき、方言が単純に消えるわけではありません。 両者が混ざって中間的な形が生まれることがあり、 真田信治はこれを「ネオ方言」と呼びました。

たとえば、語彙は共通語に置き換わったのにアクセントや語尾は地元のまま、 という話し方は多くの地域で観察されます。 本人は「標準語で話しているつもり」でも、 聞く人には地元の色がはっきり残っている。 これも、方言が消えたのではなく形を変えて生き残っている状態です。

新方言とネオ方言
新方言=若い世代で使用が増えている非共通語形(例:じゃん、ちがかった)。
ネオ方言=共通語と方言が接触して生まれた中間的な言い方。
どちらも「方言=古いもの」という前提を崩す概念ですが、 指しているものは違います。

自分の言葉から新方言を見つける方法

新方言かどうかは、簡単な手順で当たりをつけられます。①親や祖父母が使うか聞いてみる。使わないなら、新しい形の候補です。②改まった場面で使えるか考えてみる。 面接や書き言葉で使えないなら、共通語ではありません。③ほかの地域出身の友人に通じるか試す。 通じ方に地域差があれば、まだ全国区になっていない証拠です。

この3つを満たす言い方が自分の口から出てきたら、 それはいま広がっている最中の言葉かもしれません。 方言研究の面白いところは、こうした観察を素人でもできる点にあります。

ことばが広がる経路は、変わった

かつて言葉は、京都から人の移動にのって同心円状に広がっていきました ( 方言周圏論 )。いまは違います。テレビ、そしてSNSによって、距離を飛び越えて言葉が伝わるようになりました。

→ 方言周圏論

「めっちゃ」が関西から全国に広がったのも、 「なまら」を北海道以外の人が知っているのも、この経路によるものです。 一方で井上史雄は、進学や就職で都市に出た人が地元に戻るUターンも新方言の広がりに関わると論じています。 人が運ぶ経路と、電波が運ぶ経路が、いまは並走しています。

まとめ:方言は絶滅危惧種ではない

伝統的な方言が失われているのは事実です。 しかし同時に、若い世代のあいだで新しい非共通語形が生まれ、 広がり、やがて「昔からある言葉」の顔をして定着していきます。

いま自分が何気なく使っている語尾も、20年後には 「あれは◯◯地方から広がった新方言だった」と説明されているかもしれません。方言は過去形ではなく、現在進行形です。

あなたの語尾は、どこ生まれ?

言葉づかい8問・性格6問の全14問。「じゃん」派か「やん」派かといった選択から、あなたに近い土地のキャラを判定します。

参考・出典

方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。

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