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方言札とはなにか|ことばが消えるとき、何が起きるのか

方言が減ったのは、時代の流れだけが理由ではありません。学校で方言を話すと罰が与えられた時代が、たしかにありました。

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方言が減った理由を聞かれると、たいていの人は 「テレビが広まったから」「進学や就職で都会に出るから」と答えます。 どちらも正しいのですが、それだけではありません。

かつて日本の学校には、方言を話した子どもに罰を与える仕組みがありました。 「方言札(ほうげんふだ)」と呼ばれるものです。 方言の現在を考えるうえで、この歴史は避けて通れません。

方言札とは何だったのか

方言札は、標準語の使用を徹底させるため、 学校で方言を話した児童・生徒に罰として首から下げさせた木札です。 かまぼこ板ほどの大きさで、 「私は方言をつかいました」といった文言が書かれていました。

札を下げさせられた子は、次に方言を話した子を見つけて札を渡すまで、 それを外せません。つまり、子ども同士でお互いを監視させる仕組みになっていた点に、 この制度の本質があります。

いつ、どこで行われたのか
主に沖縄県で、1900年代(明治末)ごろから1950年ごろにかけて、 標準語励行運動のなかで用いられたとされます。 ただし沖縄だけの制度ではなく、東北地方や鹿児島県でも同様の標準語教育が行われたことが 報告されています。 なお、罰札を用いた言語教育はフランスの地方言語抑圧などにも例があり、 その影響を指摘する説もあります。

なぜ、そこまでして標準語を教えたのか

近代国家をつくる過程で、日本は全国共通の言葉を必要としました。 軍隊、行政、学校、産業——地域を越えて人を動かす仕組みには、 通じる言葉が要ります。 標準語教育それ自体には、そうした合理的な背景がありました。

問題は方法です。 標準語を足すのではなく、方言をやめさせる形で進められた。 しかも「方言は恥ずかしいもの」という価値づけを、 子どもの段階で植えつける方法が採られました。

「標準語」と「共通語」は、違う言葉

ここでひとつ用語を整理しておきます。標準語は「これが正しい日本語だ」と規範として定められた言葉、共通語は「地域を越えて通じる言葉」を指します。 前者には正しさの上下関係が含まれますが、後者には含まれません。

戦後の日本語研究では、規範を押しつける響きを避けて「共通語」という言い方が広く使われるようになりました。 用語が変わったこと自体が、方言に対する社会の姿勢の変化を映しています。

いちばん大きな影響は、罰そのものではない

方言札の影響として重く受け止められているのは、 札を下げる恥ずかしさよりも、「自分たちの言葉は劣ったものだ」という意識が内面化されたことだと言われます。

親が、子どもが苦労しないようにと家庭で方言を使わなくなる。 すると次の世代は、方言を聞く機会そのものを失う。 言葉は世代から世代へ渡らなければ続きません。継承の鎖が切れると、あとは自然には戻らないのです。

ユネスコが挙げた、日本の8つの言語

2009年2月、ユネスコは消滅の危機にある言語のリストを公表し、 日本国内の言語としては次の8つが挙げられました。

アイヌ語/八丈語/奄美語/国頭(くにがみ)語/沖縄語/宮古語/八重山語/与那国語。 このうちアイヌ語は、もっとも危機の度合いが高い区分に分類されています。

「方言」ではなく「言語」として数えられた
奄美から与那国までの各語は、日本では長く「方言」として扱われてきました。 しかし言語学的には、共通語との差が大きく、 相互に通じない部分も多いことから、独立した言語として数える立場があります。 この分類については「うちなーぐちと琉球諸語」の記事でくわしく扱っています。 また、八丈語(東京都八丈島)が入っている点も見落とされがちです。→ うちなーぐちと琉球諸語の記事

いま、何が行われているのか

文化庁は「消滅の危機にある言語・方言」として情報をまとめ、 保存・継承の取り組みを進めています。 自治体や大学による記録も各地で行われており、主な柱は3つです。

① 記録する

話者の音声を録音し、語彙や文法を記述して残す作業です。 話者が高齢化しているため、時間との勝負になっている地域が少なくありません。

② 教材にする

録音を残すだけでは、言葉は使われるようになりません。 辞典・教材・絵本をつくり、 学校や地域の講座で学べる形に変える取り組みが進められています。

③ 使う場をつくる

いちばん難しいのがこれです。 言語は、日常のなかで使われてはじめて続きます。 方言による演劇、ラジオ、カルタ、地域のイベント。「勉強する対象」から「使う言葉」に戻すための工夫が試みられています。

「方言は消えつつある」と単純には言えない

ここまで読むと悲観的になりますが、事実は少し複雑です。 伝統的な方言の語彙や文法が失われていく一方で、 若い世代からは新しい非共通語形が生まれ、広がってもいます ( 新方言 )。

→ 新方言

危機にあるのは「地域の言葉ぜんぶ」ではなく、その土地でしか使われていない、古い層の言葉です。 そしてその層こそが、日本語の歴史を知る手がかりを多く含んでいます。

まとめ:面白がることは、たぶん間違っていない

方言札の歴史を知ると、方言をネタとして扱うことに 後ろめたさを感じるかもしれません。 ただ、いちばん危険なのは、批判されることではなく誰にも関心を持たれなくなることです。

言葉が続くために必要なのは、話す人と、聞きたい人がいることです。 方言を面白がる入口があり、その先に 「どういう来歴のある言葉なのか」を知る道があるなら、 入口としては十分に意味があります。

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参考・出典

方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。

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