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北海道の地名はなぜ読めないのか|アイヌ語地名の「ナイ」と「ペッ」
「〜内」と「〜別」が異様に多いのには理由があります。どちらもアイヌ語で川。地名がそのまま地形の説明になっているのです。
北海道の地図を眺めていると、読み方の見当がつかない地名にぶつかります。 長万部、倶知安、忍路、留辺蘂。 本州の地名とは、明らかに手ざわりが違います。
理由ははっきりしていて、その多くがアイヌ語の地名に漢字を当てたものだからです。 音を先に決めて、あとから字をかぶせている。 だから漢字から意味を読もうとすると、うまくいきません。
方まず覚えるのは「ナイ」と「ペッ」
北海道の地名を読むうえで、最初に効くのがこの2語です。 どちらも川を指します。 「〜内」で終わる地名と「〜別」で終わる地名が異様に多いのは、そのためです。
川。地名では「〜内」と表記されることが多い
「サッナイ(サッ=乾く+ナイ=川)→ 札内」
川。地名では「〜別」と表記されることが多い
「マクンペッ(マㇰ=後ろ+ウン=にある+ペッ=川)→ 幕別」
猿別は「サㇻペッ(葦・川)」、白人(ちろっと)は「チㇼオッ・ト(鳥・がたくさんいる・沼)」。地名がそのまま地形と生き物の説明になっているのが、アイヌ語地名の大きな特徴です。 知らない土地でも、名前を読めば水があるか、乾いているかが分かる。 地名が地図として機能していたわけです。
方漢字の当て方には3つのパターンがある
北海道の地名は、一般に次の3タイプに分けて説明されることが多いです。
① 音に漢字を当てたもの。意味は無視して、響きに近い字を並べたパターンです。 釧路や小樽がこの型として紹介されます。
② 意味に合わせて漢字を選んだもの。アイヌ語の意味を訳して字にしたパターン。滝川、浜中などが挙げられます。
③ アイヌ語とは関係ない地名。函館や千歳のように、和人が付けた名前もあります。北海道の地名がすべてアイヌ語由来というわけではありません。
方語源には、はっきりしないものも多い
ここが本題です。アイヌ語地名の解説はネット上に大量にありますが、語源が確定していない地名はかなりあります。
たとえば旭川は、市の公式なアイヌ語地名表示板では 「チュㇰ ペッ」という形で示されています。 一方で、忠別川の「チュㇷ゚ペッ(日の・川)」に由来するという説明も広く知られています。どちらか一方が正解、と言い切れる状態ではありません。
札幌についても、「サッ・ポロ・ペッ(乾いた・大きい・川)」とする説と、 葦原に関わる語形を想定する説など、複数の解釈が並んでいます。 自治体の公式ページですら 「〜と言われている」「語源がはっきり分からない」と書かれている地名が少なくありません。
表示板という取り組み
旭川市は2003年から、市内にアイヌ語地名の表示板を設置しています。 設置数は40基を超え、神居古潭(カムィ コタン)、 近文(チカプニ)、石狩川(イシカラ)などが示されています。 地名の由来を、現地に立てて残していく方法です。
方東北にも「ナイ」「ベツ」がある
地図を南に下げると、青森や岩手にも 「〜内」「〜別」で終わる地名がぽつぽつ見つかります。 これをアイヌ語地名の名残と見る説は古くからあり、かつてアイヌ語系の言語が東北地方でも話されていた可能性を示す材料として扱われてきました。
ただし、これも慎重に扱うべき話題です。 「内」で終わる地名がすべてアイヌ語由来とはかぎらず、 日本語側の語で説明できるものも混ざります。一つひとつの地名について、個別に検討が必要な領域だと考えたほうが安全です。
方日本語に入ったアイヌ語
地名だけではありません。ラッコ、トナカイ、シシャモといった語は、 アイヌ語に由来するとされることが多い言葉です。 いずれも北方の自然に関わる語で、 和人側に対応する言葉がなかったため、そのまま借りたと説明されます。
ただしここでも、細かい語形や経路には諸説があります。 たとえばシシャモについては、 「ススハム(柳の葉)」に関わる語だという説明が広く知られていますが、 伝承と語源説が混ざって語られやすい部分でもあります。「アイヌ語由来とされる」までが安全な言い方です。
方アイヌ語は、いま
アイヌ語は文字を持たず、口承で受け継がれてきた言語です。 ユネスコが2009年に発表した危機言語の一覧では、 日本国内の8つの言語・方言が挙げられ、アイヌ語はそのなかで最も危険度の高い「極めて深刻」に分類されています。
いま進んでいるのは、記録と学習環境の整備です。 国立アイヌ民族博物館はアイヌ語アーカイブを公開し、 アイヌ民族文化財団はラジオ講座などの学習機会を提供しています。 言語が消えるときに何が起きるのかは、 方言札と危機言語の記事 でも扱いました。
方まとめ
北海道の読めない地名は、難読地名というより別の言語の地名を漢字で書いたものです。 ナイとペッを知っているだけで、地図の見え方が変わります。
そして、意味を調べるときは出典を見る。 気持ちよく説明してくれる語源ほど、根拠が薄いことがあります。 分からないものを「分からない」と書ける態度が、 この分野ではいちばん役に立ちます。
参考・出典
- 幕別町「アイヌ語に由来する幕別町の地名」(幕別・札内・猿別・白人などの由来)
- 旭川市「アイヌ語地名表示板について」(2003年から設置、神居古潭・近文・石狩川ほか)
- 北海道遺産「アイヌ語地名」
- 国立アイヌ民族博物館 アイヌ語アーカイブ
- 文化庁「消滅の危機にある言語・方言」(ユネスコ2009年発表、アイヌ語は「極めて深刻」)
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