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標準語だと思ってた方言10選|上京して初めて通じなかった言葉

「体がこわい」「服をなおす」。標準語だと信じて疑わなかった言葉が、県境を越えたとたん通じなくなる瞬間があります。

コラム公開 更新 読了 約7

方言だと自覚している言葉は、実はそれほど危険ではありません。「なまら」「めっちゃ」「ばり」のような 強調表現は、話し手自身が「これは地元の言葉だ」とわかって使っているからです。

本当に通じないのは、標準語とまったく同じ形をしているのに、意味だけが違う言葉。 発音も文字も普通なので、話し手も聞き手も食い違いに気づけません。ここでは、そんな「気づけない方言」を10個集めました。

1. こわい — 怖い、ではなく「疲れた」

こわい北海道・東北・茨城ほか

疲れた、体がだるい

今日は歩きすぎて、なんまこわいわ〜。

この10選の代表格。北海道から東北、茨城のあたりまで広く使われます。漢字を当てるなら「強い」で、 体がこわばる感覚が語源とされます。上京した学生が「今日こわい」と言って、 何におびえているのか心配される——というのが定番のすれ違いです。 なお信州(長野)では「ごはんがこわい=固い」と、また別の意味で使われます。

2. なおす — 直す、ではなく「片付ける」

なおす京都・山口・大分・熊本など西日本〜九州

片付ける、しまう

使うたら元のとこになおしといてな。

西日本から九州にかけて非常に広い範囲で使われます。「その資料、なおしといて」と頼まれて、 壊れてもいない書類を修理しようとした、という話は関東出身者の鉄板ネタ。 逆に西日本の人からすると「片付ける」は少し硬い言い方に感じられ、日常では「なおす」のほうが自然です。

3. なげる — 投げる、ではなく「捨てる」

なげる北海道・秋田など

捨てる

このゴミ、なげでけれ。

「ゴミなげといて」と言われた転校生が、ゴミ箱めがけて律儀に投球する光景が各地で目撃されています。 こちらも「放(ほう)る」からの派生で、西日本の「ほかす(捨てる)」と発想は同じ。 つまり全国的に、捨てる動作は「投げる系」の動詞で表されがちなのです。

4. うるかす — 水に浸しておく

うるかす北海道・福島(山形では「うるがす」)

水に浸す、ふやかす

食べ終わったら茶碗うるかしといてね。

これは意味が違うのではなく、標準語に対応する一語が存在しないタイプ。 「潤す」が変化した言葉で、標準語で言おうとすると「水に浸しておく」と説明的になります。 便利すぎるがゆえに方言だと気づかれにくく、上京後もつい口から出てしまう筆頭格です。

5. いずい — 説明できない違和感

いずい仙台・南部(東北)

しっくりこない、違和感がある

服のタグが首さ当たっていずいっちゃ。

東北出身者が「標準語に訳せない」と口をそろえる言葉。目にゴミが入った状態も、 靴のサイズが微妙に合わない状態も、人間関係の居心地の悪さも、すべて「いずい」で足ります。 感覚を一語で言い切れる語彙があるかどうかは、その土地の暮らしの解像度そのものです。

6. えらい — 偉い、ではなく「しんどい」

えらい東海・関西・中国地方など

疲れた、しんどい/とても

今日は一日中歩いて、でらえらいわ。

名古屋・静岡・京都・鳥取・山口など、驚くほど広い範囲で使われます。 やっかいなのは「えらい人が来た」が〈立派な人〉とも〈大変な人出〉とも読めてしまうこと。 京都弁の例文「今日はえらい人やったし、もうえらいわ」は、その両方が一文に同居した見本です。

7. たいぎい — 面倒くさい

たいぎい広島・香川・愛媛など中国四国

面倒くさい、だるい

夜勤明けじゃけえ、たいぎいわ〜。

「大儀(たいぎ)」という古い漢語が形容詞化して生き残ったもの。 現代の標準語では「大儀である」はほぼ死語ですが、中国・四国では日常語として現役です。 古語が方言に残るという、後述の方言周圏論を地で行く例といえます。

8. みてる — 見てる、ではなく「なくなる」

みてる広島・岡山・山口など

なくなる、尽きる

醤油がみてたけえ、こうてきて。

「シャンプーみてた」と言われて、誰が何を見ていたのかと混乱する。 アクセントも標準語の「見てる」とほぼ変わらないため、10選のなかでも屈指の紛らわしさです。 「満(み)つ」の否定的用法から来ているとされ、こちらも由緒ある言い回しです。

9. つる — 机を「つる」

つる名古屋(東海地方)

(机などを)運ぶ

掃除の時間だで、机つってちょう。

学校の掃除の時間にだけ全力を発揮する方言。「机をつる」で〈机を持ち上げて運ぶ〉を意味します。 地元では小学校の先生も普通に使うため、方言だと気づくのは進学や就職で外に出てから、というパターンが大半です。

10. 押ささる — つい押してしまう

押ささる北海道

(意図せず)押してしまう

ポケットの中でボタン押ささってたわ。

北海道弁の「〜さる」は、自分の意志ではなくそうなってしまった、という状態を表す文法。 「書かさる(勝手に書けてしまう)」「見らさる(つい見てしまう)」と応用が利きます。 標準語には同じ機能の形がないため、道民は上京後に説明の長さで初めて特殊さを知ります。

なぜ「方言だと気づけない」のか

10個並べてみると、気づけない方言には型があることがわかります。

型①:標準語と同じ形で意味だけ違う

「こわい」「なおす」「えらい」「みてる」がこれ。音も表記も標準語なので、 話し手には方言を使っている自覚がなく、聞き手にも方言だという合図が届きません。 すれ違いが起きても、しばらく双方が気づかないのが特徴です。

型②:標準語に一語で訳す言葉がない

「いずい」「うるかす」「押ささる」がこれ。あまりに便利で、代わりの表現が思いつかないまま使い続けてしまいます。 方言の豊かさが、そのまま通じなさに直結する例です。

型③:学校や職場など、閉じた場面の語彙

「机をつる」がこれ。使う場面が限られているぶん、そこから出るまで比較の機会がありません。 掃除・給食・体育といった学校生活の語彙には、地域差が驚くほど残っています。

通じなかったときは、方言のほうが正確なことも
言葉が通じなかった経験を「恥ずかしい」と感じる必要はありません。「いずい」も「うるかす」も、 標準語より正確に状態を言い当てています。むしろ、標準語のほうが表現を持っていないだけ、という場面は珍しくありません。

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