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なまりの正体は「音」にある|母音の無声化・四つ仮名・中舌母音

方言の正体は、実は語彙よりも発音にあります。しかも「発音が違う」と「頭の中の区別が違う」は、まったく別のことです。

言語学入門公開 更新 読了 約8

方言というと、まず「言葉が違う」と考えます。 でも実際に「なまってるね」と言われる場面をよく思い出すと、 使っている単語は共通語のまま、ということが多いはずです。

違っているのは音のほうです。 母音が消える、シとスが混ざる、語中の濁音が鼻にかかる。方言の正体のかなりの部分は、語彙ではなく発音にあります。

まず「音声」と「音韻」を分ける

発音の話をするときは、2つの層を分けると一気に見通しがよくなります。 国立国語研究所の解説では、音声=耳に聞こえる実際の発音音韻=話し手の頭の中にある発音の区別の体系と説明されています。

たとえば出雲地方では、語頭の「エ」が共通語の「イ」に近く聞こえます。 でも話し手は「駅」と「息」をちゃんと区別しています。音声は違うが、音韻体系は共通語と同じというケースです。 「なまり」に聞こえても、頭の中の区別は同じ、ということが起こります。

音韻そのものが違う場合——四つ仮名の合流

一方、区別の体系ごと違う場合もあります。 同じ解説によれば、出雲方言と東北方言では「シ」と「ス」、「チ」と「ツ」、「ジ」と「ズ」が音韻として区別されていません

結果として「染み」と「墨」、「父」と「土」が同じ音になります。 区別がない話し手にとっては、共通語でこれらを聞き分けること自体が難しい。発音が下手なのではなく、頭の中の区別の数が違うのです。

いわゆる「ズーズー弁」の中身
東北の話し方を指してこう呼ぶことがありますが、 その中身は主にこの区別の合流と、イ・ウが口の真ん中寄りで発音される中舌母音です。 こうした特徴は東北だけでなく、新潟北部や南北海道、 茨城・栃木・千葉北部の一部にも広がっているとされます。 なお「寒いから口を開けないため」といった説明を見かけることがありますが、これは俗説として扱われることが多く、 方言学では音の歴史的な変化として説明するのが一般的です。

母音が消える——母音の無声化

「靴(クツ)」の「ク」、「奇跡(キセキ)」の「キ」。 ふつうに発音すると、母音がほとんど響かず、 息だけのような音になります。これが母音の無声化です。

この現象は全国一律ではありません。東北・関東・北陸・九州では起きやすく、 東海・近畿・四国・中国では起きにくいという傾向が知られています。 日本語の音声研究でも「近畿方言は東京方言より無声化が少ない」という見方が検証されてきました。 ただし2003年の実験研究では、近畿方言の話し手のなかにも東京方言と同程度に無声化する人がいて、地域でひとくくりにできるほど単純ではないことが報告されています。

関西の人の発音が「一音ずつはっきりしている」と感じられるのは、 この差が効いている部分があります。 逆に東京の発音が早口に聞こえるのも、消える母音が多いからです。

九州では、母音そのものが落ちる

九州方言では無声化がさらに進み、 母音が脱落して「犬」が「いん」、「秋が」が「あっが」のようになる例が知られています。 音が詰まって、共通語より音節数が減る。 鹿児島の言葉が速く聞こえる理由の一つです。 地域ごとの差は 九州方言の記事 で扱っています。

→ 九州方言の記事

子音のほうの地域差

国立国語研究所の解説では、ほかにもこんな例が挙げられています。

セ・ゼが「シェ」「ジェ」になる方言。「先生」が「シェンシェイ」に近くなります。 これは古い日本語の発音を残した形と考えられています。

語中の濁音が鼻にかかる方言。「ンダ」「ンバ」のように、濁音の前にわずかな鼻音が入ります。 東北の話し方が独特に聞こえる要因の一つです。

「キ」が「チ」になる方言。沖縄などで知られる対応です。 琉球のことばの音の法則は うちなーぐちの記事 でくわしく解説しました。

→ うちなーぐちの記事

出雲に残る「クヮ」
出雲方言では「火事」を「クヮジ」と発音することがあります。 「クヮ」は中世日本語で確立し、 東京方言をはじめ多くの地域で失われた音です。方言はくずれた形ではなく、古い音の保存庫でもある—— という例として、よく引かれます。

アクセントは「区別の数」が違う

音の地域差の最後がアクセントです。 ここも「高低が逆」という話にとどまりません。 2拍の和語名詞を調べると、東京方言は3種類、京都方言は4種類、鹿児島方言は2種類の区別があるとされます。

さらに平安時代の京都では5種類が区別されていたと考えられており、 時代とともに一部が失われてきたことになります。 つまりアクセントの地域差は、単なる違いではなく、失われ方の違いでもあるわけです。 分布については アクセントの日本地図の記事 を参照してください。

→ アクセントの日本地図の記事

まとめ

方言の音の違いは、大きく3つに整理できます。①同じ区別を違う音で発音する(音声の差)②区別の数そのものが違う(音韻の差)③高低の型が違う(アクセントの差)

自分の発音のどこが「なまり」と言われるのかを考えるとき、 この3つのどれに当たるのかを見分けると、 直したいのか残したいのかも判断しやすくなります。 少なくとも、単語を言い換えるだけでは変わらない部分がある、 ということは覚えておいて損がありません。

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参考・出典

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