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呼び名が地域で変わるもの図鑑|ばんそうこう・今川焼き・ものもらい
「サビオ持ってる?」が通じなかった経験はありませんか。実は方言ではなく、地元メーカーの商品名だったというケースがあります。
引っ越して最初に戸惑うのは、難しい方言よりも「ふつうの名詞のはずなのに通じない」瞬間だったりします。 ばんそうこうを買ってきてと頼まれて、店で商品名がわからない。 おやきを想像したら別の食べ物が出てくる。
しかもこの手のズレには、方言と呼んでいいものと、そうでないものが混ざっています。 この記事では調査データのある3つの例を取り上げて、 呼び名がどう分かれているのか、そしてそれは本当に方言なのかを見ていきます。
方① ばんそうこう ——「方言」ではなく「地元メーカー」
いちばん有名なズレです。呼び名は5種類以上あり、しかも地図がはっきり分かれます。 阿蘇製薬が公開している「ばんそうこうの呼び方マップ」では、おおよそ次のように整理されています。
ケンビュー(旧ジョンソン・エンド・ジョンソン)の商標。全国規模のCMが強く、都市部で優勢。
佐賀県に本社を置く祐徳薬品工業の商品名。西と東北という離れた地域で使われているのが面白いところ。
熊本県に本社を置くリバテープ製薬の商品名。1960年に発売された国産初の救急絆創膏。
もとはスウェーデンの製品名に由来する商標。現在の製造は阿蘇製薬。
商品名ではなく一般名称でそのまま呼ぶ地域。
方② 今川焼き ——「北海道でおやき」問題
丸い型で焼いた、あんこ入りのあれ。SELF株式会社が2022年12月にアプリ利用者4,152名へ行った調査では、 全国では「大判焼き」と「今川焼き」が上位2つでしたが、地方別に見ると1位が入れ替わります。
長野の「おやき」とはまったく別の食べ物なので、話が噛み合わなくなる代表例。
江戸・神田の今川橋あたりで売り出されたという由来が知られる。
姫路の店の名前がそのまま食べ物の名前になったもの。
注目したいのは、後半3つが店の名前だということです。 ばんそうこうと同じ構図で、地元で圧倒的に強い1店舗・1商品が、そのままカテゴリー名になっている。 近畿でもっとも意見が割れたのは、「回転焼き」「大判焼き」「今川焼き」「御座候」が同居しているからです。
この現象には名前がある
商標が一般名詞のように使われるようになることを、 マーケティングや商標法の文脈では商標の普通名称化と呼びます。 エスカレーター、ホッチキス、セロテープなどが全国規模で起きた例。 ばんそうこうと今川焼きは、それが地域ごとに別々に起きた珍しいケースだと言えます。
方③ ものもらい ——こちらは正真正銘の方言
まぶたにできる、あの腫れ。ロート製薬が公開している「ものもらいMAP」によれば、 全国では「ものもらい」が34.5%で1位、「めばちこ」が27.5%で2位、「めいぼ」が7.2%で3位。 ただし全国平均にはあまり意味がなく、県ごとに見ると景色が変わります。
他人から物をもらうと治る、といった民間の言い伝えと結びつけて説明されることが多い語。
関西では「ものもらい」のほうが通じにくいことすらある、圧倒的な多数派。
「めいぼ」が東へ伝わる過程で生じた形と考えられている。
こちらは省略形。
全国的にはほとんど通じないが、当地では通常の言い方。
こちらは商品名がひとつも出てきません。「めいぼ」→「めんぼ」→「めぼ」と形が連続的に変化しながら地伝いに広がっているのも、方言らしい振る舞いです。 商標由来の呼び名は飛び地に現れますが、方言は地続きで少しずつ形を変えていく。 分布図の形そのものが、由来の違いを示しています。
方見分け方:飛ぶか、にじむか
3つを並べると、判別のヒントが見えてきます。
商標由来の地域差は、県境でスパッと切り替わり、離れた地域に飛び地を作ります (カットバンが東北と中四国に同時に現れるのがその例)。 成立時期も新しく、たいてい戦後です。
いっぽう方言としての地域差は、境界がぼやけ、隣接地域で少しずつ形が変わります。 「めいぼ/めんぼ/めぼ」のように、変化の途中の形が地図の上に並ぶ。 これは新しい言い方が中心から波紋のように広がった名残で、方言周圏論で説明される分布です。
方まとめ
ばんそうこうと今川焼きは、メーカーと店が作った地域差。ものもらいは、ことばが自力で作った地域差。 同じ「通じない名詞」でも、成り立ちはまったく別物です。
身のまわりには、まだ検証されていない呼び名の地域差がたくさんあります。 自分の言い方が地図のどこにあるのか、まずは診断で見当をつけてみてください。
参考・出典
- 阿蘇製薬株式会社「ばんそうこうの呼び方マップ」
- SELF株式会社「『今川焼き?大判焼き?回転焼き?』4,152名アンケート調査」(調査期間 2022年12月16〜21日)
- ロート製薬「ものもらいMAP — ものもらい(麦粒腫)の呼び方」
- 日本経済新聞「ものもらいを『ばか』と呼んだら宮城県出身」
- 各絆創膏の発売年はマイナビニュース「バンドエイドと絆創膏の違いは? サビオやカットバンなど地域別呼び方も紹介」による
方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。