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呼び名が地域で変わるもの図鑑|ばんそうこう・今川焼き・ものもらい

「サビオ持ってる?」が通じなかった経験はありませんか。実は方言ではなく、地元メーカーの商品名だったというケースがあります。

コラム公開 更新 読了 約7

引っ越して最初に戸惑うのは、難しい方言よりも「ふつうの名詞のはずなのに通じない」瞬間だったりします。 ばんそうこうを買ってきてと頼まれて、店で商品名がわからない。 おやきを想像したら別の食べ物が出てくる。

しかもこの手のズレには、方言と呼んでいいものと、そうでないものが混ざっています。 この記事では調査データのある3つの例を取り上げて、 呼び名がどう分かれているのか、そしてそれは本当に方言なのかを見ていきます。

① ばんそうこう ——「方言」ではなく「地元メーカー」

いちばん有名なズレです。呼び名は5種類以上あり、しかも地図がはっきり分かれます。 阿蘇製薬が公開している「ばんそうこうの呼び方マップ」では、おおよそ次のように整理されています。

バンドエイド東京・東海・近畿ほか

ケンビュー(旧ジョンソン・エンド・ジョンソン)の商標。全国規模のCMが強く、都市部で優勢。

カットバン東北全県・中国・四国・北部九州ほか

佐賀県に本社を置く祐徳薬品工業の商品名。西と東北という離れた地域で使われているのが面白いところ。

リバテープ熊本・大分・宮崎・沖縄ほか

熊本県に本社を置くリバテープ製薬の商品名。1960年に発売された国産初の救急絆創膏。

サビオ北海道・和歌山・広島ほか

もとはスウェーデンの製品名に由来する商標。現在の製造は阿蘇製薬。

キズバン富山ほか
ばんそうこう北関東・南関東・北陸・信州・静岡ほか

商品名ではなく一般名称でそのまま呼ぶ地域。

これは方言なのか?
答えはノーに近いです。5つのうち4つは商標、つまり企業の商品名。 メーカーの所在地や営業圏によって「その地域でいちばん見かける商品」が違い、 それが一般名詞のように定着したものです。方言学でいう方言(歴史的に分化した言語形式)ではなく、流通が作った地域差。だから成立したのもここ数十年の話です。 バンドエイドの国内発売が1959年、リバテープが1960年、カットバンが1961年、サビオが1963年。 ほぼ同時期に各社が出したものが、それぞれの地元に根を張りました。

② 今川焼き ——「北海道でおやき」問題

丸い型で焼いた、あんこ入りのあれ。SELF株式会社が2022年12月にアプリ利用者4,152名へ行った調査では、 全国では「大判焼き」と「今川焼き」が上位2つでしたが、地方別に見ると1位が入れ替わります。

おやき北海道(7割超)

長野の「おやき」とはまったく別の食べ物なので、話が噛み合わなくなる代表例。

大判焼き東北・中部・中国・四国で1位
今川焼き関東で過半数

江戸・神田の今川橋あたりで売り出されたという由来が知られる。

回転焼き近畿・九州沖縄で1位
御座候兵庫を中心に(近畿・中国で票)

姫路の店の名前がそのまま食べ物の名前になったもの。

あじまん東北で票(山形など)
蜂楽饅頭九州沖縄で4位

注目したいのは、後半3つが店の名前だということです。 ばんそうこうと同じ構図で、地元で圧倒的に強い1店舗・1商品が、そのままカテゴリー名になっている。 近畿でもっとも意見が割れたのは、「回転焼き」「大判焼き」「今川焼き」「御座候」が同居しているからです。

この現象には名前がある

商標が一般名詞のように使われるようになることを、 マーケティングや商標法の文脈では商標の普通名称化と呼びます。 エスカレーター、ホッチキス、セロテープなどが全国規模で起きた例。 ばんそうこうと今川焼きは、それが地域ごとに別々に起きた珍しいケースだと言えます。

③ ものもらい ——こちらは正真正銘の方言

まぶたにできる、あの腫れ。ロート製薬が公開している「ものもらいMAP」によれば、 全国では「ものもらい」が34.5%で1位、「めばちこ」が27.5%で2位、「めいぼ」が7.2%で3位。 ただし全国平均にはあまり意味がなく、県ごとに見ると景色が変わります。

ものもらい東日本中心(神奈川91%・千葉89%・埼玉89%)

他人から物をもらうと治る、といった民間の言い伝えと結びつけて説明されることが多い語。

めばちこ関西中心(大阪91%・兵庫90%・奈良88%)

関西では「ものもらい」のほうが通じにくいことすらある、圧倒的な多数派。

めいぼ京都・滋賀に多い
めんぼ岐阜・愛知

「めいぼ」が東へ伝わる過程で生じた形と考えられている。

めぼ三重・中国・四国

こちらは省略形。

ばか宮城など

全国的にはほとんど通じないが、当地では通常の言い方。

こちらは商品名がひとつも出てきません。「めいぼ」→「めんぼ」→「めぼ」と形が連続的に変化しながら地伝いに広がっているのも、方言らしい振る舞いです。 商標由来の呼び名は飛び地に現れますが、方言は地続きで少しずつ形を変えていく。 分布図の形そのものが、由来の違いを示しています。

見分け方:飛ぶか、にじむか

3つを並べると、判別のヒントが見えてきます。

商標由来の地域差は、県境でスパッと切り替わり、離れた地域に飛び地を作ります (カットバンが東北と中四国に同時に現れるのがその例)。 成立時期も新しく、たいてい戦後です。

いっぽう方言としての地域差は、境界がぼやけ、隣接地域で少しずつ形が変わります。 「めいぼ/めんぼ/めぼ」のように、変化の途中の形が地図の上に並ぶ。 これは新しい言い方が中心から波紋のように広がった名残で、方言周圏論で説明される分布です。

どちらも「通じない」ことに変わりはない
由来が違っても、引っ越し先で困る度合いは同じです。 大事なのは「自分が使っている言い方が全国共通とは限らない」と知っていること。 通じなかったときに「変な言い方をする土地だ」ではなく「そういう地域差か」と思えるだけで、 だいぶ生きやすくなります。

まとめ

ばんそうこうと今川焼きは、メーカーと店が作った地域差。ものもらいは、ことばが自力で作った地域差。 同じ「通じない名詞」でも、成り立ちはまったく別物です。

身のまわりには、まだ検証されていない呼び名の地域差がたくさんあります。 自分の言い方が地図のどこにあるのか、まずは診断で見当をつけてみてください。

あなたの言い方は、どのあたり?

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参考・出典

方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。

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