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「ありがとう」の方言めぐり|おおきに・だんだん・もっけだの語源
「ありがとう」の言い方は、地域によってまったく違う言葉になります。しかも語源をたどると、感謝の表し方そのものが3つの型に分かれていました。
方言の話題でいちばん盛り上がるのは、たぶん「ありがとう」です。 名詞や形容詞の方言はなんとなく想像がつきますが、感謝のことばは地域によってまったく別の単語になってしまうことがあるからです。 「おおきに」も「だんだん」も「もっけだ」も、字面からは感謝の意味が読み取れません。
ところが語源をたどっていくと、それぞれがちゃんと理屈で説明できます。 しかも全国の「ありがとう」は、おおまかに3つの型に分けられます。この記事では代表的な5つを、由来ごとに整理していきます。
方そもそも「ありがとう」の語源は「めったにない」
本題に入る前に、標準語の「ありがとう」を確認しておきます。これは形容詞「有り難し」——「有ることが難しい=めったにない」——の連用形「ありがたく」が音便化した形です。 もとは感謝ではなく、めずらしさ・畏れ多さを表す語でした。
つまり日本語の感謝表現は、はじめから「ありがとう」だったわけではありません。 「こんなことは滅多にない」という驚きが、いつのまにか感謝の定型句になった。 この「感謝を、別の感情で言い換える」という発想が、そのまま各地の方言にも見られます。
方型①:程度の副詞だけが残った「おおきに」「だんだん」
ありがとう
「おおきに、また来るわ」
ありがとう
「だんだん、助かったわ」
方型②:申し訳なさで感謝を表す「きのどくな」「もっけだ」
ありがとう(恐れ入ります)
「わざわざ来てもろて、きのどくな」
ありがとう(申し訳ない)
「こげなとこまで来てもらって、もっけだの」
この型は、標準語の「すみません」「恐れ入ります」に近い発想です。 感謝を、相手への負担の自覚として表す。日本語の敬意表現のなかでも、 とりわけ内向きな感情の使い方だと言えます。
「ありがとう」も、実は同じ型だった
ここで冒頭の話が効いてきます。「有り難し=めったにない」と、庄内の「もっけ=思いがけない」は、 ほとんど同じ発想です。標準語も方言も、「予期していなかった」という驚きから感謝へ渡っている。 言い方は全国でバラバラでも、その裏にある心の動かし方はよく似ています。
方型③:ていねいな動詞そのものが残った「にふぇーでーびる」
ありがとうございます
「いっぺー にふぇーでーびる(本当にありがとうございます)」
方使うときの注意:意味は同じでも、距離感は同じではない
旅先でつい真似したくなりますが、感謝の言葉は敬語と同じで距離の調整装置です。 「おおきに」は店員と客のあいだで交わされるくだけた響きを持ちますし、 「きのどくな」「もっけだ」は目上へのあらたまった場面で使うと少し重すぎることもあります。
また、これらの語が日常でどれくらい使われているかは世代でかなり差があります。 若い世代では「ありがとう」が優勢で、方言形は祖父母世代の言葉として理解はできるが自分では使わない、 という地域も少なくありません。「その土地の人は必ずこう言う」と思い込まないのが、 方言と付き合ううえでいちばん大事なところです。
方まとめ
「ありがとう」の方言は、単語を暗記するとバラバラで覚えにくいのに、 由来で束ねると驚くほどすっきりします。強調だけが残ったもの、恐縮を言い換えたもの、 古い敬語が生き残ったもの。どれも、感謝という気持ちを日本語がどう扱ってきたかの記録です。
あなたの言葉づかいは、この3つの型のどれに近いでしょうか。 診断では語尾や言い回しから、あなたに近い土地のキャラを判定します。
参考・出典
- レファレンス協同データベース(国立国会図書館)「出雲弁『だんだん』が『ありがとう』という意味になった理由について知りたい」/典拠:後藤蔵四郎『出雲方言考』1927、広戸惇・矢富熊一郎編『島根県方言辞典』1963 ほか
- goo辞書 方言集「もっけだ(山形の方言)」(goo辞書は終了しホストが消滅。Internet Archive の保存版)
- ウィクショナリー日本語版「にふぇーでーびる」
- 「ありがとう」「気の毒」「勿怪の幸い」の語誌は各種国語辞典の記述による
方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。