方言ラボ
無料診断

※本ページはプロモーションが含まれています

「ありがとう」の方言めぐり|おおきに・だんだん・もっけだの語源

「ありがとう」の言い方は、地域によってまったく違う言葉になります。しかも語源をたどると、感謝の表し方そのものが3つの型に分かれていました。

語源公開 更新 読了 約7

方言の話題でいちばん盛り上がるのは、たぶん「ありがとう」です。 名詞や形容詞の方言はなんとなく想像がつきますが、感謝のことばは地域によってまったく別の単語になってしまうことがあるからです。 「おおきに」も「だんだん」も「もっけだ」も、字面からは感謝の意味が読み取れません。

ところが語源をたどっていくと、それぞれがちゃんと理屈で説明できます。 しかも全国の「ありがとう」は、おおまかに3つの型に分けられます。この記事では代表的な5つを、由来ごとに整理していきます。

そもそも「ありがとう」の語源は「めったにない」

本題に入る前に、標準語の「ありがとう」を確認しておきます。これは形容詞「有り難し」——「有ることが難しい=めったにない」——の連用形「ありがたく」が音便化した形です。 もとは感謝ではなく、めずらしさ・畏れ多さを表す語でした。

つまり日本語の感謝表現は、はじめから「ありがとう」だったわけではありません。 「こんなことは滅多にない」という驚きが、いつのまにか感謝の定型句になった。 この「感謝を、別の感情で言い換える」という発想が、そのまま各地の方言にも見られます。

型①:程度の副詞だけが残った「おおきに」「だんだん」

おおきに関西(大阪・京都ほか)

ありがとう

おおきに、また来るわ

いちばん有名な感謝の方言です。もとは「大きに」で、「大いに・非常に」という程度を表す副詞。「おおきに ありがとう」「おおきに すんまへん」のように 後ろの語を強める言葉でした。それが後半を省略して、副詞だけで感謝を表すようになったものです。 だから本来は「おおきに」単体で「ありがとう」という意味を持っていたわけではありません。
だんだん出雲(島根県東部)

ありがとう

だんだん、助かったわ

構造は「おおきに」とそっくりです。国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、 『出雲方言考』(1927年)などを典拠として「だんだん(重ね重ね)ありがとうございます」の後半が省略されたという説が紹介されています。同じ項目では、仏教経典の「断断」=繰り返し断ずること、 つまり謝辞の極まりを表す語に由来するという別の説も挙げられています。
「おおきに」型の共通点
どちらも程度を強める副詞で、後ろに続くはずの「ありがとう」が消えた形です。 日本語では「どうも」も同じ経路をたどりました(「どうも ありがとう」→「どうも」)。 感謝の言葉が短くなるとき、残るのは中身ではなく強調の部分だ、という共通の癖が見えてきます。

型②:申し訳なさで感謝を表す「きのどくな」「もっけだ」

きのどくな富山・石川(北陸)

ありがとう(恐れ入ります)

わざわざ来てもろて、きのどくな

標準語の「気の毒に」と同じ語ですが、意味の向きが違います。 標準語では相手を憐れむ言葉ですが、北陸では「あなたに手間をかけさせてしまって、申し訳ない」という自分側の恐縮を表し、 それがそのまま感謝の挨拶になります。もらいものをしたときに使うのが典型で、 初めて聞くと「え、迷惑だった?」と誤解しがちな一語です。
もっけだ/もっけだの山形県庄内地方

ありがとう(申し訳ない)

こげなとこまで来てもらって、もっけだの

「もっけ」は「勿怪(もっけ)の幸い」の「もっけ」。 思いがけない、意外だ、という意味の語です。 つまり「思いもよらないことをしてもらった」という驚きが、そのまま感謝になっています。 こちらも「申し訳ない」というニュアンスを含み、感謝と謝罪の中間あたりに位置する言葉です。

この型は、標準語の「すみません」「恐れ入ります」に近い発想です。 感謝を、相手への負担の自覚として表す。日本語の敬意表現のなかでも、 とりわけ内向きな感情の使い方だと言えます。

「ありがとう」も、実は同じ型だった

ここで冒頭の話が効いてきます。「有り難し=めったにない」と、庄内の「もっけ=思いがけない」は、 ほとんど同じ発想です。標準語も方言も、「予期していなかった」という驚きから感謝へ渡っている。 言い方は全国でバラバラでも、その裏にある心の動かし方はよく似ています。

型③:ていねいな動詞そのものが残った「にふぇーでーびる」

にふぇーでーびる沖縄(うちなーぐち)

ありがとうございます

いっぺー にふぇーでーびる(本当にありがとうございます)

「にふぇー」が感謝・ありがたく思うこと、「でーびる」が「〜ございます」にあたる丁寧の言い方。 「御拝(みはい)で侍(はべ)る」=拝んでかしこまる、が由来とされています。 省略でも言い換えでもなく、古い日本語の敬語の形がまるごと残っているタイプです。 くだけた場面では「にふぇー」だけ、あるいは「しかりぶさん」など別の言い方も使われます。
3つの型のまとめ
①程度副詞が残った型=おおきに・だんだん(+標準語の「どうも」)/②恐縮・意外性の型=きのどくな・もっけだ(+標準語の「すみません」「ありがとう」)/③敬語表現が残った型=にふぇーでーびる。 地図の上ではバラバラに見える言葉が、成り立ちで並べ替えると3列に整理できます。

使うときの注意:意味は同じでも、距離感は同じではない

旅先でつい真似したくなりますが、感謝の言葉は敬語と同じで距離の調整装置です。 「おおきに」は店員と客のあいだで交わされるくだけた響きを持ちますし、 「きのどくな」「もっけだ」は目上へのあらたまった場面で使うと少し重すぎることもあります。

また、これらの語が日常でどれくらい使われているかは世代でかなり差があります。 若い世代では「ありがとう」が優勢で、方言形は祖父母世代の言葉として理解はできるが自分では使わない、 という地域も少なくありません。「その土地の人は必ずこう言う」と思い込まないのが、 方言と付き合ううえでいちばん大事なところです。

まとめ

「ありがとう」の方言は、単語を暗記するとバラバラで覚えにくいのに、 由来で束ねると驚くほどすっきりします。強調だけが残ったもの、恐縮を言い換えたもの、 古い敬語が生き残ったもの。どれも、感謝という気持ちを日本語がどう扱ってきたかの記録です。

あなたの言葉づかいは、この3つの型のどれに近いでしょうか。 診断では語尾や言い回しから、あなたに近い土地のキャラを判定します。

あなたの「ありがとう」は、何弁?

言葉づかい8問・性格6問の全14問。全国35体のご当地キャラから、あなたの言語感覚に近い相棒を判定します。

参考・出典

方言は同じ県内でも地域・世代によって差があります。掲載内容と異なる言い方をご存じの場合はお知らせください。

→ お問い合わせ